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広島高等裁判所 昭和33年(ネ)15号 判決

控訴人 香川潮 外二名

被控訴人 吉和村東山山林組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は「原判決を取消す、広島地方裁判所が同庁昭和三一年(ヨ)第一号仮処分申請事件につき昭和三十一年一月六日、同庁昭和三二年(ヨ)第七四号仮処分申請事件につき昭和三十二年三月八日それぞれなした各仮処分決定はこれを取消す、被控訴人の各仮処分申請を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、双方代理人において左記の通り述べた外、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

第一、被控訴人の主張

一、昭和十四年法律第十五号森林法中改正法律の施行により被控訴組合は昭和二十年九月限り法人たる森林組合としては解散し、民法上の組合に還元するに至つたが、その実体においては終始変りない社団であり、意思決定機関たる総会と執行機関及び代表者の定めを有し、民事訴訟法第四六条により当然に当事者能力を有するものである。

二、仮に右の主張が理由がないとしても、旧森林法に基ずく吉和村東山施業森林組合は昭和二十年九月十日に当然消滅したわけではなく、改正森林法施行令第六三条により準用せられる民法第七三条により清算結了に至るまでなお法人格を存続しているものとみなされる。そして、右清算事務は未だ終了していないのであるから、被控訴組合は清算法人として現に存続しているものである。被控訴組合の清算人は昭和二十年九月解散当時の組合長理事たる佐々木憲一であつたが、同人は昭和二十七年三月十日死亡したため、同年九月十五日の臨時総会において槇島改租が被控訴組合の組合長理事に選任され同人が民法第七四条により清算人に選任せられたものとみなされる。

第二、控訴人等の主張

一、昭和二十年九月解散した東山施業森林組合と被控訴組合との間には同一性が認められない。従つて、被控訴組合を清算組合と認めることはできない。被控訴組合は広汎かつ多角的な山林経営をなし、本件仮処分の前後を通じ山林伐採行為をなし来つており、清算組合の性格に反する活動をしているものである。

二、仮に被控訴組合が清算組合であるとすれば、被控訴組合は本件訴訟遂行につき適格な代表者を有しないことになり、本件各仮処分申請は却下せらるべきものである。すなわち、昭和二十年九月東山施業森林組合が解散した当時の代表理事は佐々木憲一であつたが同人は昭和二十七年三月十日死亡したところ、槇島改租は同年九月初めて被控訴組合の組合員となり代表理事に選任せられた。しかし、清算段階にある法人に新に組合員として加入することは許されないところであるから槇島の清算組合への加入は無効であり、同人が清算組合の清算人に就任することは許されない。従つて、被控訴組合を代表すべき清算人は存在しないものである。

疏明の関係は、被控訴代理人において、甲第三十三号証の一ないし四、第三十四、第三十五号証の各一、二、第三十六号証の一ないし四、第三十七号証、第三十八号証の一、二、三を提出し、控訴人等の当審において提出した乙各号証中乙第三十九号証の三ないし七の成立は不知であるが、その他の乙各号証の成立を認める、乙第三十九号証の二ないし七が同号証の一の封筒に封入されて送付せられたものであることは認めると述べ、控訴人等代理人において乙第三十一号証、第三十二号証の一、二、第三十三号証の一ないし八、第三十四ないし第三十六号証、第三十七号証の一ないし八、第三十八号証の一ないし四、第三十九号証の一ないし七を提出し被控訴人の当審において提出した甲各号証中甲第三十三号証の一、二、四、甲第三十五号証の一、甲第三十六号証の一ないし四の成立は不知であるが、その他の甲各号証の成立を認めると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所は、本件各仮処分決定を正当として認可すべきものと認める。そして、その理由は、以下(イ)、(ロ)の通り訂正附加する外、原判決理由に判示せられたところと同様であるからこれを引用する。

(イ)  原判決理由中一を次の通り訂正する。

一、債権者(被控訴)組合の当事者能力について

成立に争のない甲第二、第三号証、乙第十九号証、乙第二十一号証の一、二、乙第二十二号証、乙第三十八号証の二、原審証人村上嘉一の証言により真正に成立したと認め得る甲第一号証、甲第十九号証、甲第二十一号証の一ないし十三原審証人木村実一の証言(第二回)により真正に成立したと認め得る甲第十八号証、原審における証人皆本源次郎、木村実一(第一、二回)、村上嘉一の各証言、被控訴組合代表岩槇島改祖本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、本件係争山林及びその附近の山林は、明治維新以前には広島県佐伯郡吉和村下四組部落民の入会地であつて、明治十五年頃右部落民二百余名の共有地となつたが、共有者による山林の管理が不十分であつたため、大正十五年頃関係官庁のすすめにより同村宇吉和東一五九二番地ないし一五九五番地の各山林の共有者を組合員として旧森林法(明治四〇年法律第四三号)に基ずく森林組合を設立し右各山林を管理することとなり、同年九月十五日定款(甲第一号証)を作成し、昭和二年二月二日広島県知事より設立の認可を受けたこと、右組合は名称を吉和村東山施業森林組合と称し、森林利用上の困難を排除し森林の利用をして国土の保安に適合せしめることを目的とし事業として右各山林地区の森林につき、造林、伐木、造材、運材、立木竹その他の産物の処分、森林の保護、森林の経営と相反せざる土地の利用を施行することを定め、組合の機関として総会、理事、監事を置き、理事のうちから組合長、副組合長を互選し、組会長が組合を代表するものとしたこと、その後、昭和十五年九月十日改正森林法(昭和十四年法律第一五号)が施行せられるに至つた結果、旧法によつて設立せられた森林組合は同日より五年内に、監督官庁の許可を得て改正法による組合とならなかつた場合には、右五年の期間の満了の日に解散することとなつたところ、前記組合は改正法による組合となる手続をとらなかつたため、右改正法附則第五項により昭和二十年九月十日法律上当然解散するに至つたこと、従つて右解散当時の前記組合の理事は清算人として右組合の清算手続を遂行すべきであつたのにかかわらず、全く右組合の清算手続を行わず、債権者組合が前示甲第一号証の定款に基ずく社団であり右解散組合の継続として存在するものとなし、引続き吉和村東山施業森林組合の名称を使用して右組合と同一の機構、形態で右組合の事業を継続して行つて来たのであるが、このことに対しては当時右組合の組合員も同意しており、債権者その他の利害関係人から何等の異議の申出がなく、また監督官庁からも何等の指示命令もなされなかつたこと、その後本件各仮処分決定のなされた後昭和三十二年四月十二日附を以て広島県林務部長より債権者組合の組合長理事槇島改租及び理事村上嘉一に対し債権者組合が森林法に基ずく組合でないのにかかわらず森林組合の名称を使用するのは違法であるから右名称使用を禁止する旨通告し来つたので、債権者組合は右通告に基きその名称を変更し現在の通り吉和村東山山林組合と改めるに至つたことを疏明することができる。

旧森林法により設立された森林組合は営利を目的とせざる社団法人である。およそ社団法人が解散した場合には、その理事は清算人として清算手続を遂行すべきものであり、解散した法人は民法第七三条により清算の目的の範囲内においてのみ存続するものとみなされるのであるから、解散法人が清算の目的を超えてその事業を積極的に継続して行うことは原則として許されないところである。しかし、社団法人が解散しても、その解散の前後を通じて法人の実体たる組織体は同一であり、清算手続の結了するまでは、右組織体の社会的存在を否定することはできないのであるから、社団法人が解散したのにかかわらず、清算人となるべき理事が組合員(社員)の同意の下に清算手続を行わず従前の法人と同一の形において同様の活動を継続する場合には、その理事の法律上の責任は別として、解散した社団法人の実体たる組織体が法人格のない社団として従前の法人の事業を継続して行つているものと認めざるを得ない。そして、右の如き法人格のない社団は、その存在が法律により禁止せられず或は公序良俗に反しない限り、民事訴訟法第四六条により当事者能力を有するものといわねばならぬ。前に認定した事実によれば、債権者組合は前示森林組合の実体を承継している法人格のない社団であり甲第一号証の定款により代表者の定めのあるものである。また、前示改正森林法附則第五項に「第三項ノ組合ニシテ同項ノ期間内ニ改正規定ニ依ル組合ト為ラザルモノハ其ノ期間満了ノ日ニ於テ解散ス」と規定せられた趣旨は、改正規定による組合とならなかつた旧森林組合に対し法人格を否認し、改正森林法による森林組合としての法律上の取扱を拒否すると共に森林組合の名称を使用することを禁止するに止まり、旧森林組合が人格なき社団として従来の事業を引続き行うことをも禁止するものではないと解するのを相当とする。しからば、債権者組合は法律上その存在を禁止せられているものではなくまたその存在が公序良俗に反するものとも認められないから民事訴訟法第四六条による当事者能力を有することは明らかである。また、債権者組合は前示甲第一号証によれば、前記各山林につき造林、立木竹その他の産物の処分、森林の保護等の事業を営むことを目的とする社団であり右各山林の管理権を有するものであることを疏明できるから、本件各処分事件につき債権者としての当事者適格をも有するものといわなければならない。

(ロ)  乙第三十一号証、乙第三十二号証の一、二、乙第三十三号証の一ないし八、乙第三十四ないし第三十六号証、乙第三十七号証の一ないし八、乙第三十八号の一ないし四、乙第三十九号証の一ないし七によつても、原判決理由二の認定を左右することはできない。

よつて、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 岡田建治 佐伯欽治 松本冬樹)

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